教室紹介・概要

近年,糖尿病,脂質異常をはじめとした栄養代謝異常や肥満などの生活習慣病は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と密接に関連していることが報告されている.NAFLDの5-25%は5-10年で肝硬変に至り,その中から5年間で10%に肝発がんがみられるといわれている.このNAFLDの病態と肝発がんに至るまでの病態に対して,これまで基礎的,臨床的アプローチから検討し報告してきた.最近はこれらの病態に対して,肝細胞,内皮細胞,星細胞,免疫担当細胞などの構成細胞単位での病態解析のために,炎症細胞社会やがんエコシステムという概念のもとに研究を進めている.

また,2017年に指定を受けたWHO慢性肝炎肝癌協力センターでは,WHOからの委託事項として,1. WHO西太平洋事地域肝炎対策計画(2016-2020)を基に,各国に適した肝炎スクリーニングや介入,治療目標を導入し,達成するためのサポートを行う.2.慢性ウィルス性肝炎と肝癌分野において,WHOに技術支援を行うとなっており,これらの委託事項を基づきWHO西太平洋事務局と協働し,肝疾患に関する公衆衛生的な介入する研究を含めた活動を行っている.

 一方、食事由来の血液中の遊離脂肪酸(FFA)は、細胞の膜構成単位やエネルギー源として必須の栄養素であるが、近年細胞外シグナル分子としても注目されている。90年代にG蛋白質共役型オーファン受容体(GPCR)のリガンド探索によって、FFA受容体(FFAR)ファミリーの存在が明らかになった。その中で、GPR40(別名:FFAR1)は中鎖および長鎖の各種FFAに対して幅広く高親和性を示す7回膜貫通型のGPCRである。

 GPR40はげっ歯類では膵臓での発現量が最も多く、β細胞に高発現し、FFAシグナルを受けてインスリン分泌を調節する。一方、ヒトでは脳における発現量が最大であることが2003年に初めて報告された。その後、霊長類モデルを用いた申請者らの研究とbrain-lipid sensingに関する先駆的研究によって、GPR40は海馬や視床下部において発現量が多く、ニューロン新生や摂食制御と密接に関与していることが、明らかにされた。

 酸化ストレスを受けて化学構造が変化したHNEやトランス脂肪酸、抱合型脂肪酸などに対してGPR40が過剰に興奮し、非生理的なCa2+動員をきたすことでカルパインは異常に活性化される。Hsp70.1はHNEによってカルボニル化されると、活性型カルパインによって切断され易くなるため、そのシャペロン機能とリソソーム膜の安定化作用は機能しなくなる。その結果、損傷蛋白のリサイクルができなくなって細胞内にゴミ蛋白が蓄積するだけではなく、リソソーム膜は膜透過性が亢進しカテプシン酵素が漏出してしまう。この両者がもたらす各臓器での細胞死によって、アルツハイマー病のみならず種々の生活習慣病が発症している可能性が高い。

 当教室のもう一つの研究では、世界的に様々な疾患モデルで追試されて来た研究代表者提唱の「カルパイン-カテプシン仮説」に基づき、ω−6系の食用油を多量に摂るヒトに好発するアルツハイマー病や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)及び2型糖尿病などの病因を、ヒドロキシノネナール(HNE)などの過酸化脂質に着目して究明する。すなわち、『酸化損傷(カルボニル化)とカルパイン切断がもたらすHsp70.1の異常に起因するリソソーム膜の破綻』をサルモデルで検証し、生活習慣病の根本原因を見直す。

私たちの研究室では以下の領域に関する研究を行っています。

  1. 栄養代謝異常および生活習慣病に関連した肝疾患の研究
  2. 肝疾患に関する公衆衛生的な介入方法の研究
  3. 西太平洋地域における慢性肝疾患と肝がんの研究
  4. ヒドロキシノネナールと生活習慣病の関連についての研究
  5. 霊長類に特異的なBrain-lipid sensingの研究

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